Beijing Diary

番外編

恋人たちの夜

晋君

午後、晋君が坊主頭で教室に現れた。どうしたのか、と聞くと苦笑いしている。友人も笑いをこらえている。彼は、その理由を知っているらしい。坊主頭の男子学生など誰一人いないだけに、奇異に思えた。

その日の夜、自習時間が終わり、売店でタバコを買って部屋に戻ろうとしたとき、ばったりと晋君に出会った。ビールを買いに行くところだったらしい。「先生、少し散歩しませんか?」と彼が誘った。別に用事はなかったので、付き合うことにした。といっても学内のキャンパスをただ歩くだけだ。

「いつもビールを飲んでいるの?」「いえ、毎日ではありません。ただ昨日は友達と何本も飲んで酔っ払ってしまいました。実は失恋したんです」。坊主頭にした理由が分かった。かなりショックだったのだろう。相手は、二週間ほど前、大連から来た19歳のH。ショートカットで確かにかわいい子だ。日本語がまったく分からないため、彼が時々教えていた。二人で食事をしたり、歩いているのを何度もみかけた。ひとめぼれだったらしい。しかし、彼女は故郷に彼氏がいることが発覚した。

なんと純情なのだろう。晋君は、真面目に勉強し、クラスでも日本語の成績はいいほうだ。中国語や中国の歴史・人物なども教えてくれる。今回の滞在で、特に親しくなった学生の一人だ。将来は、日本に留学し、アニメの勉強をしたいという希望を持っている。子供のころ、「ドラえもん」のテレビを見るのが楽しみで、宮崎駿の作品についても詳しい。

夜のキャンパスは、ほとんど明かりがない。それをいいことに、運動場付近の木陰で親しそうに話しているカップルが何組かいるのに気づいた。青春真っ盛り。全寮制で規制も多いだけに、唯一、二人だけの時間を楽しんでいるのだろう。

その後、晋君と彼女は、何もなかったかのよう教室で話していることがあった。二人の仲はどうなったのだろう。

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印鑑を買いました

職人の技

繁華街・王府井の北京工芸美術部で頼まれていた印鑑を作った。たくさんの印材がガラスケースの中に収められている。1センチ角・長さ5センチの鶏血石を選んだ。鶏血石というのは、石の中に鶏の血のような色が混じっていて一般に高価なものとされている。選んだ石の定価は100元。それを60元に値切った。多分、本物ではないだろう。彫り代は、別で一字10元。拡大鏡を目にはめ、丁寧に彫っていく。職人の技だ。

そう言えば、学生の李君に昌平市内に印鑑屋があるかと訊くと、もちろんある、と答えて案内してくれた。ひとつは新華書店のビルの一室。たまたま、そのとき経営者は書を書いていたが、印材は15元、彫り代は一字10元。ただし、彫り方は刻みを入れるだけ。字体も一任。結局、止めた。もう一軒は、通りを少し入ったところ。気に入った印材がなかったので、これも止めた。北京・流璃厰は、観光地だけに高かった。

中国土産の定番のひとつ、印鑑。どこでも簡単に手に入れることができる。しかし、日本人観光客の大半は、わずか数十元ということもあって定価で買っている。知人の中国人は、定価で買うのはもったいない、という。個人商店は値切ることが可能で旅の楽しみのひとつだが、企業形式のところは、いまや、そうはいかない。国営の友誼商店は、サービスは悪く、値段も概して高い。いつも見るだけだ。

中国は、偽物・コピーの国。定価など、あってないに等しい。しかし、伝統や技術の継承の影で、経済発展とともに、このようなシステムに少しずつ変わっていくのではないか。日本もかつては、アメリカの真似をした。中国から、偽物やコピーがなくなったとき、中国は真の経済力をつけたとも言えるだろう。

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学内食堂

安いが、味は今ひとつ

長方形のテーブルが5×8列くらい、ひとつのテーブルに10人ほど座る。天井の電灯は経費節減のためか、一本ずつの蛍光灯が数カ所にしか点けられていなく、全体的に暗い。部屋の隅にはDVD。台湾や香港の映画が映され、学生たちは楽しんでいる。

メニューは、油条や饅頭、麺類、野菜の炒め物、卵料理・・・など、名前は忘れたが10元未満。街の食堂に比べたら、決して美味しくはないが、一応、腹の足しにはなる。習慣なのか、テーブルの上や床には、食べ散らかした料理が散乱している。中には、ビニール袋に入れて持ちかえり、部屋で食べる者もいる。

他に、この学校経営の食堂以外に業者が3軒店を出しており、値段は少々高いが、味はまだまし。牛肉麺や揚州チャーハンが三元でボリュームもある。ビールは一本一元で味は淡白。

それまでの中国旅行では、一食で数百元を平気に使っていた。それだけに、現地の人たちの食生活に慣れてくると、数十元の食事が結構、高いもの・貴重なものに思えてくる。

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包(バオ)さん

学校近くで・・

英語課の一年生。杭州出身。明るくて、素直だ。李君の紹介で、日本語を教えてくれと言ってきた。英語課の生徒は、日本語課の学生に比べて、総じてレベルが高い。入学前から基礎を身につけているためか、目的意識が明確なのか。それとも、教師のレベルの差か。中国の学生で最も人気の高い英語。日本語の人気の比ではない。関係図書の書店の占有率にも、それは明確に出ている。中国が国際社会の仲間入りをし、ビジネス社会で高給を得るためには英語を習得することは、日本と同じく、学生にとって大きな学習目的。学校を去るとき、彼女は自分たちの顔を見ようとしなかった。涙をこらえていたようだ。

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お湯は不可欠

みんな白湯を飲む

中国語で、お湯のことを開水というが、語源は何だろうか。朝、昼、夕方の三回、お湯が出る。係りの男性は、このお湯を沸かすために石炭を燃やし続ける。風呂はなく、学生たちは週に三回、シャワーを浴びる。給湯の時間、四つの蛇口の前はポットを持った学生たちで混雑する。お茶ではなく、白湯で飲む学生がほとんど。日本のように、学内に自動販売機はない。中国に自販機がないのは、コインの問題なのか、盗難の可能性なのか、今後、設置されるのだろうか)。断水したことが、何度かあった。その時は、お湯が唯一の水分補給源だけに、売店を利用せざるを得ない。まだまだ、施設の整備は遅れている。

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英語教師から学生への手紙

エルビス

英語教師が学生たちに当てた手紙が掲示板に貼られていた。 簡単な手紙だが、日本人教師は日本語で同じように学生たちを激励できるだろうか。

Success and Goodluck

There ‘s little   bird  on top of the tree
Singing with a melodious voice
That ring like the keys of a piano
I stopped to listen, 
The bird was singing a song of success 

To all his friends at the exam hall

Gold and silver I have nonethe bird sings
I wish I could read for you
I wish I could write the exam for you
I would have done that with Happiness
But all I wish is success and goodluck
With my songswith my giftsand with my heart
I love you allthe bird sings

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麦肯基とは・・・

紛らわしい名前

万里の長城でみかけたハンバーガーショップ。麦当労(マクドナルド)と肯徳基(ケンタッキーフライドチキン)をひとつにしたのだろう。街を歩けば、このような西側の有名企業の名前をもじった看板をよく見かける。コピー商品から始まり、自立した企業へ移行するための一里塚か。ビジネスは勝てば官軍の側面が強い。客が名前に惹かれて、店に入ったり、商品を買ったりして利益を出すことができればそれでよし。商標権や版権への認識は、「人治」の国・中国では、まだ十分に浸透していない。しかし、WTOに加盟し、国際経済の中に入った今、「法治」の国へと必然的に移行していくだろう。

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昌平駅構内

人ひとり、いない

北京への列車は、朝、昼、夜、一日にわずか三本。所要時間は、バスとほぼ同じく約一時間。本数が少ないだけに、昌平の人たちのほとんどがバスを利用するが、その混雑振りは想像を絶する。それに比べれば、列車の利用は、席を確保することは比較的楽だ。沿線で目立つのは、ごみやビニールがたくさん捨てられていること。車窓からの遠景もほとんど見るべきものはない。学校から歩いて約10分のところに昌平駅がある。構内には誰もいない。駅員さえ、見かけない。壁に貼ってあった写真を見ると、数名の駅員はすべて女性。駅長も女性だ。列車がいないとき、彼女たちは何を毎日やっているのだろう。多分、この駅が混雑するのは、ゴールデンウィーク、国慶節、春節などの長期休暇のときぐらいの時ではないのか。

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学習十戒

壁新聞

学校の掲示板にあった学習十戒。

●選択不当(xuan3 ze2 bu4 dang4)

●選材不明(xuan3 cai2 bu4 ming2)
●常立志(chang2 li4 zhi4)
●本本主義(ben3 ben3 zhu3 yi4)
※書物主義。現実に即せず、もっぱら上司の指示どおりに行うやりかた。
●単打一(dan1 da3 yi1)
※一本槍でいく。あるひとつの仕事だけに取り組む。
●固執己見(gu4 zhi2 ji3 gian4)
●自暴自棄(zi4 bao4 zi4 qi4)
●漫無目的(man4 wu3 mu4 di4)
●浅嘗輒止(qian3 chang2 zhe2)
※深く吟味せず表面だけをなでる。うわべだけ分かったらそれでよしとする。
●驕傲自満(jiao1 ao4 zi4 man4 )
※驕り高ぶって、いい気になる。

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サッカー人気

サッカーの試合に見入る

サッカー観戦は、学生にとって数少ない娯楽のひとつである。ワールドカップの前哨戦が放映されていた。学生たちは、自習時間を怠けて食堂に集まる。中国チームの攻防に一喜一憂。歓声とため息が聞こえる。四人〜六人の相部屋にはテレビはなく、プライベートな空間はない。若いだけに、息がつまるのではないか。この間、女子学生たちは何をしているのだろう。ただ、勉強のためだけの全寮生活。日本の学生に比べて、ストイックな生活を強いられるのは制度として仕方ないとしても、もっと自由があっていい、と思うのだが。

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地に落ちた毛沢東

毛沢東の写真が落ちかけているが・・・

教室正面の壁に二枚の写真がかかっている。左が毛沢東、右が周恩来。「好好学習、天天向上」という文字とともに、教室でよく見かける風景だ。しかし、左側の毛沢東の写真は、今にも剥がれ落ちそうな状態。随分、長い間、このままになっている。誰かが注意してもよさそうだが。
いまや、毛沢東は、中国の人々にとって過去の人物なのか。ケ小平理論は学習しても、毛沢東には関心はないのか。文化大革命の時など、彼が実権を握っている時代であれば、このようなことはあり得なかっただろう。

ところで、北京・天安門の彼の肖像はいつ消えてなくなるのだろうか。

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瀋陽事件の影響

警備の車が常駐

各国の大使館が集まる北京建国門付近。アメリカ大使館を過ぎ、日本大使館領事部に向かっていた。人通りは少ない。
門が見えてきた。記念に写真を撮ろうとすると、警官が近づいてきた。
「お前は何者?何をしている」
「私は日本人。記念に写真を撮っている」
「身分証明書を見せろ」
「持っていない」
「・・・・・・・・・・。これからどこへ行く」
「近くの領事部広報部へ行く」
「領事部はあそこだ」
「謝謝。」
少し歩いていると、またもや、別の警官が、
「お前は何者?何をしている」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
瀋陽駈込み事件の影響か、中国政府はかなり神経質になっている様子に思えた。

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地下鉄の広告

日本製品の広告が目立つ

地下鉄のホームで見かけた看板。所得の向上に伴い、WindowsXPやナショナルのシェーバーなどもあった。いまや、日本の地下鉄と変わらない。広告ビジネスは、経済の発展に伴い、もっと盛んになっていくだろう。

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李自成の像

李自成の像

学校から街に行く途中、ロータリーの公園の中央に 李自成の像が見える。ここは万里の長城と明十三陵の分岐点。李自成は、北京に入城し、腐敗していた明王朝を滅ぼした農民反乱軍の指導者。なぜ、この地に彼の像があるのだろう。夜になると、この公園には多くの市民たちが集まる。

→ 明末期の将軍呉三桂は、1644年、北京が李自成軍に落とされるやいなや、守備していた長城東端の山海関の天下第一大門を開け、満州鉄甲軍を引き入れ、北京へ入れて天下を取らせた。ここは、その場所だったのか。

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バスの中で新聞を売る

始発駅で乗り込んで来る

始発のバスが出発する前に、たくさんの新聞を抱えて新聞売りが乗り込んでくる。北京市内まで約一時間。間が持たないので読む人もいるのだろう、結構売れている。地下鉄でも、売店だけ出なく、車両の中で新聞を売り歩いている。かつての人民日報だけと異なり、今、中国の新聞も北京晩報など、その数は増えている。それだけ、情報量も拡大しているということだ。

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危ない仕事

日本では、よく見かけるが・・・

昌平の電柱に、葉書大の赤いチラシが張ってある。月収三万元と書いてある。普通の仕事でせいぜい1000〜1500元なので、職種は簡単に想像できる。この写真を見て李君は「危ない仕事」と言った。非合法ともいえる、このような広告が、堂々と貼ってあるところに も中国の自由化への一側面を見ることができる。

ちらしと言えば、「淋病防疫」も目立つ。庶民の罹患率が高いのだろうか。売春婦は意識が低いのか、その90%がなんらかの性病にかかっている、と書いている本もあった。

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路上床屋

床屋は競争状態

スーパー小白羊の近くで、ボランティアと思える路上床屋をみかけた。赤い布には、理美容専門学校の文字。学生たちの訓練の場だ。北京でも、このように路上で髪を買っている場面を見かけた。昌平の街では床屋が多い。将来性のある仕事なのか。

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野菜売り

豊富で安い

街に出ると、露天で野菜を売っていた。名前のわからないものもある。彼らは、一日いくら稼ぐのか。露天なので、天気の悪い日は商売は休み。昌平では、野菜は日本のスーパーなどのように店内で売っているのは見かけなかった気がする。肉も一部の店では、ハエがたかっているにもかかわらず板の上に並べたまま。スーバーができたり、冷蔵庫が普及するまでは、みんな、そうしていたのだろう。中国の経済が発展し、都市が整備されるにつれ、このような露天商もいずれ、姿を消すのではないか。

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体育祭

気分転換を図れるか

学科別対抗の体育祭。陸上、バドミントン、サッカーなどの競技があった。しかし、このようなイベントに全く無関心で、北京に遊びに行く学生も多い。

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Created by YujiIshibashi