建甌・武夷山  1999.11.16〜11.19

市政府幹部の宴会の裏にあるものは、豊かさの追求なのか。煉瓦工場で黙々と働く労働者たち。幻の烏龍茶を今度は飲みたい。

流通センターオープン

同行者
 
 今回の旅行は行き先が二転三転し、どうしようかと考えていた所、友人から武夷山(ぶいさん)に行かないか、という誘いがあり、行程の明細を聞かないまま渡りに船と決めました。同行したのは、彼の勤める中国野菜輸入会社のK社長(46歳、長春出身、在日が長くすでに帰化しています)と取引先の漬物会社T社長(52歳)でした。
 
現地到着明け方5時
 
 初日夕方、予定通りに福岡を飛び立ったものの、国内線の遅延で上海から福州に着いたのが現地時間24時30分。福州空港の床はすべて御影石?社長からお聞きしていた石の町をまず実感しました。
  そこから迎えにきていた車に分乗し出発。夜中の山道なのに交通量は多く、対抗車線のサーチライトが突然目に飛び込み、ひっきりなしに通過していきます。途中、料金所で停止するたびに、古びたサンタナはエンスト。こんな周囲が真っ暗な山中で、とうとう動かなくなったのではないかと気にしていたところ、前の方で大型トラックが転倒。我々の乗った車はわずか1車線の道路からはみ出し、立ち往生する双方向数十台のトラックを横目に山肌斜面を走り抜けていきます。そして目的地・建甌(けんおう)市内に着いたのが明け方五時。薄暗い大通りでは朝市が始まっていました。
 
宴会
 
  人口五十万人の建甌市(けんおうし)は福州と武夷山を結ぶ途中にあり、中国有数の竹の産地だそうです。K社長は最終的にここに約二千万元(二億六千万円)を投資し、椎茸や竹の子などの加工工場を建設するため、T社長は月産二十万個(二十トン)の高菜パック生産を委託するために訪問しました。特に工場建設は市にとってはビッグプロジェクトであり、市長を始め市政府幹部が昼夜の宴会で我々3人に接待です。(パリッとした焼き餃子がうまい。竹の子料理が多い、福矛春という白酒は少し甘味があって飲みやすい…)。中にふっくらとした紅一点、30代後半でしょうか、彼女は副市長。社交性と知性が感じられます。二日目には、現地のトップである共産党書記も顔を出しました。それにしても、中国人はなんとパワフルなのでしょう。言葉はほとんど判りませんが、乾杯のたびに、お互い口角泡を飛ばすという表現がぴったりのにぎやかさです。
 

副市長とT社長

 
改革開放の波
 
  翌日、物産センターのオープニングセレモニーに招待されました。ここは地元の物産品を中心に展示直売するところで、茶、酒、竹製品、食品、衣類、日常雑貨などの店が幅5M、奥行き10Mほどの区画に百軒以上並んでいます。この場所も商業施設としては市にとって初めての大きな開発物件ですが、投資はほとんどゼロだそうです。頭のいい男が各業者に開発計画を持ちかけ、テナント料と2階にある住居の家賃収入を担保に市から土地を、銀行からお金を安く借ります。着眼点、人脈、度胸、行動力があれば、ビジネスチャンスがあるというひとつの例でしょう。セレモニーでは、化粧した子供たちの鼓笛隊や爆竹が雰囲気を盛り上げます。前日、宴会で同席した市の幹部たちが祝辞を述べた後、テープカット。色とりどりの風船が舞い上がり、数百羽の鳩が飛び立ちます。夜のローカルニュースで、この時の状況が放映されていました。一攫千金を狙う者たちの野心を背景に、改革開放の波は、このような地方都市にも少しずつ普及しています。
 
ウーロン茶の試飲 竹の調度品
中国の地方都市
 
  漬物工場に我々の車が到着したとき、突然、爆竹が鳴り響きました。賓客の訪問を歓迎しているのでしょう。観光する所は全くなく、街中は相変わらず道路の掘り起こしで土ぼこりが舞っています。若い女性たちのファッションの流行はジーンズに厚底靴。宿泊したホテルの近くに小さなアスレチッククラブがありました。経営者は25歳の女性。彼女も事業拡大を夢見る老板(ラオバン、社長)のひとりです。若者にとっては何ら楽しみといえるものはなく、またテレビで見る都会の華やかさを実際に見ることなく、この山間の地で一生を終える者も多いのかも知れません。中国沿岸部の大都市の豊かさや雑踏に比べ、経済発展途上とは言いながらも、中国の地方都市の大半がまだまだ貧しい生活を強いられている感を持ちました。
 
煉瓦工場
 
  郊外の工場建設予定地の一部では、現在も原始的な方法で煉瓦を生産しており、男たちはリヤカーいっぱいに乗せられた煉瓦を運ぶために忙しく往来し、女たちはその煉瓦をせっせと積み上げています。約二百メートル四方に数万個の煉瓦が日干しにされている場面は壮観ですが、果たしてどれだけの稼ぎになるのか。彼らの労働を横目に現地を視察する書記・市長などの市幹部や開発業者との落差は余りにも大きく、「言ってはならない資本主義、やってはならない社会主義」というざれ歌はまさに共産主義国・中国の矛盾を言い当てています。
 
日干しにされる煉瓦
いい加減
 
  本当は、二日間でビジネスを終え、三日目に武夷山で1泊、観光の予定でした。そのために付け焼刃で中国茶の勉強もしていたのですが、当日、急遽市側の都合で予定が入り、市内からそのまま武夷山飛行場へ直行。やむなく空港でお茶と六百元(今回は1元=13.2円)の急須をK社長に三百元に値切ってもらい、買いました。飛行機はここでも出発が一時間遅れ、交通機関の馬馬虎虎(マーマーフーフー、いい加減)な時刻管理は日常茶飯事のようです。
 
武夷山飛行場

裕福そうな客たち
 
 最終日前日夜、上海空港近くのホテルに到着。現地中国人の案内で市内の「叙友」という海鮮料理店に行きました(ここのシャコは美味しい!!!)。その客層、雰囲気、味、サービスになぜかほっとします。シンガポール、マレーシア、香港、アモイなどでチェーン店を展開しているこの高級店で旅の終わりを実感していると、談笑する裕福そうな客たちに重なって、汗にまみれる煉瓦づくりの労働者たちの姿が対照的に思い出されます。(上海人は、いまや日本人と同じく、汗をかかなくなりました)
 
学ぶものは多い
 
  その日の夜、テレビのニュースで十二月の澳門の返還準備が報じられていました。中国の将来を悲観することで知られる中嶋嶺雄氏の近著「中国・台湾・香港」(PHP新書)を読むと返還後の衰退する香港が記されています。澳門も同じ道を歩むのでしょうか。
 いずれにせよ、今回の旅はハプニングがあったものの、日常をしばし忘れるとができ、従来の観光とは少し違うものでした。平均化された日本人と異なり、貧しいがゆえに自分の力量だけを頼りに金を得ることに必死になる、そこに中国の人たちのハングリー精神、エネルギーを実感します。かつて日本もそうでした。しかし、いまや経済的な豊かさを得た反面、人間として大切な元気を失ってしまったような気もします。そういった意味でも、まだまだ混沌とした中国から学ぶものは多いと思います。(完)

The trip to China
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