上海(2)1997.10.4〜10.6

冒険家の楽園 ?上海は今回も、好奇心を煽る刺激的な街だった。

銀河賓館の窓から見た風景

1994年3月、初めて中国の地を踏んだ。人の多さとモノトーンの風景が印象的だった。

あれから3年、上海はどう変わったのか。
 
1.上海は冒険家の楽園?
 
今日の中国沿岸部の隆盛をもたらした市場経済化は、政治的安定が続く限り、もはや後戻りすることはないように思える。なかでも上海は、92年のケ小平の南巡講話を契機に、中国発展の牽引力となった。その背景には、人口1300万人を超えるビッグマーケットをねらった欧米や日本など外資系企業の進出の影響が大きい。林立する高層ビル群、高速道路を疾走する車、地下鉄2号線工事、浦東地区のテレビ塔や黄浦江を往来する貨物船・・・・。案内してくれた(フォン)さんが、次の言葉を教えてくれた。「上海遍地是黄金、上海是冒険家的楽園」。上海駐在の商社マン(三井物産上海貿易有限公司副総経理・大原正志氏)は講演会で、こう予言した。「上海ブランドが、これから中国を制する」。しかし本当に、上海の未来は薔薇色なのか。
 
2.向銭看(拝金主義)
 
上海虹橋空港から都心に向かう高速道路。バスの窓からたくさんの新築住宅が見える。購入者は、成功した「冒険家」達。添乗員の説明によると、一戸2千万から3千万円。上海人の平均月収が大体2万円〜3万円とすると、とんでもない金額だ。所を変えて、上海一の繁華街・南京路。香港と同じく、けばけばしいネオンが印象的だ。その通りの一角にある洋品店。店舗のガラスに貼ってある「経営失敗のため大安売り!」のチラシが目に入る。黄河路美食街は、個人経営のレストランが多く、外灘(バンド、上海有数の観光地)では物売りがしつこく声をかけてくる。上海、そして中国は今、老板(個人経営者)を目指す人々であふれている。別の言い方をすれば、目先の利益しか眼中にないビジネスと拝金主義の氾濫。しかし、このエネルギーこそ中国に活気と豊かさをもたらした原点なのだ。
 
3.生き馬の目を抜く上海
 
4車線の道路を横断する人や自転車の群れ。事故は起こらないのか?初めて中国を訪れる者なら誰でも、そう感じる。商社マンの大原氏がこう解説した。「車が見えなくなるのを待っていると、いつまでも横断できない。車は左右からひっきりなしにやって来る。少々のリスクがあっても、その間隙を縫って渡らないと横断できない。つまり、道路を渡らない人は、世渡りの下手な人であり、生き馬の目を抜く上海では生きていけないかもしれない」。社会秩序を維持するためにルールは当然守るべきである、という発想は、ここでは、なんら意味を持たない。
 
4.上海博物館は素晴らしかった
 
豫園(よえん)は3年前と同じく、観光客で賑わっていた。九曲橋を渡り、湖心亭を見て、緑波楼で昼食を取った。その後、タクシーを拾い、人民広場へ。社交ダンスに興じる人たちの右手に市政府とオペラハウス、そして左手にはめざす上海博物館。入場料20元を払い中へ入る。(今年7月、悪名高い外国人価格が撤廃された)。陶磁器、貨幣、民族衣装、書画、家具・・・。いずれも中国の歴史を彷彿とさせる見事な展示品ばかりだ。一時間程度では、十分には見きれない。この日は、梁吉華(吉はさんずい)という香港の女流画家の作品群が特別に展示されていた。天女を思わせるさまざまな女性たちが、淡い色使いで美しく描かれていた。
 
豫園・湖心亭
5.ショッピング
 
第一百貨店、伊勢丹、八百半・・・。10近い百貨店をぶらぶらと回った。商品の数は豊富だが優劣の差があった。伊勢丹は品揃えも高級で客層も比較的良い。第一百貨店は立地がいいせいか客の数は多いが、従業員のサービスや制服はいまひとつ垢抜けていない。中国の流通業にとって、品質の向上とともにサービスの向上は必然的な課題である。
 
人民幣が余ったので、宿泊した銀河賓館の土産店で墨を買った。値札は120元(1元=約14円)。高いと言ったら、100元にするという。それでも高いというと、いくらならいいかと聞いて来た。結局50元で買ったが、いかに「馬馬虎虎」(いい加減)な商売なのか。多くの日本人観光客は定価で買い、馬鹿を見ている。
 
買い物と言えば、中国語のテキストとHSK(漢語水平考試)のカセットテープを買った。テキストは、中国人のための日本語学習用テキストと小学成語詞典。新華書店で合わせて26元。カセットテープは上海外国語大学の事務室でたまたま見つけた。テープ6巻とテキストで74元。合計で、ちょうど100元。大いに満足している。大切なことは、実際に学習の役に立てるかどうかだが、余り期待できない。
 
6.実践中国語
 
会社を休んで、案内してくれたフォンさんは、日本語が全く理解できない。必然的に、自分の片言の中国語だけが頼りとなる。彼がホテルの部屋を訪ねて来た時から、実践中国語会話がスタートした。その日の行程を打ち合わせし、タクシーに乗って、いろいろな場所を訪れた。買い物、食事、見学、上海住宅事情・・・・。朝9時半から夜10時過ぎまで、なんとか意思疎通を図りながらの一日だった。彼の言葉を理解できたのは、多分50%もなかったのではないか。しかし、逆にいえば、自分の中国語が少しは通じたということでもある。フォンさんとの実践会話は、今後の中国語の学習を続けるための励みになった。ただ、彼は大丈夫と言ったが(?)、乗りたかった揚子江河口までの遊覧船めぐりは、時間を間違えて乗れなかった。
 
7.人材市場
 
人材市場は日本の職安とシステムが似ている。掲示板の求人票には4千元という高額の給与を提示している企業があった。また日程を決めて、業種別・職種別に合同説明会が開かれる。松下・三菱・日立などの日本系企業も、この合同説明会に参加している。年齢・男女・学歴などの条件に基づき、面接を行う。女性たちは、中国でも就職難は変わらない。
 
8.上海外国語大学
 
上海外国語大学を訪ねた。授業風景を見ることはできなかったが、キャンパスの雰囲気は、施設の古さを除けば、日本のそれと変わらない。事務室に掲示してあった漢語研修生の時間割は午前中のみ。昼からはフリーの時間となる。よほど、しっかりとした目的意識を持って留学しないと、全くの初心者が1年程度で中国語がマスターできることは無理だ。出発前、友人から「姪が上海外国語大学へ留学するので、どんな雰囲気か見てきてくれ。特に女子トイレを・・・」と頼まれた。写真を撮った。悪名高き中国のトイレは、決して綺麗とはいえないが、慣れてしまえば問題はない・・・・?!。
 
上海外国語大学正門
 
9.和平飯店で古き良き時代のジャズを・・・
 
 外灘(バンド)近くにある和平飯店。石造りの建物の中でジャズが聴くことができる。話の種として行って見たが、演奏者は年配の人たち。店内は落ち着いた雰囲気で、結構込んでいる。外国人観光客や接待のビジネスマンなどが多い。上海ルネッサンス時代は華やかなシーンもあったのだろう。
 
Old Jazz Band
 
10.混沌の街・上海
 
上海・杭州から始まった中国への旅は、北京・大連と回数を重ね、再び上海に戻ってきた。言葉の不自由な個人旅行でありながら、大都市という安心感もあって、少しずつ中国になじんできた感じがする。しかし、今回の上海旅行は、2回目というものの、整理すべき課題や情報がまだまだ多い。例え、経済発展により庶民の生活が豊かになって行ったとしても、人間の本質は簡単には変わらない。日本人とか中国人とかいった国籍を越えて、そこで生活していく人々の姿こそ、一番興味がある。自分の中国旅行の最大の目的は、いろいろな人と出会い、いろいろなものを見ることを通して自分自身を考え、次のステップにつないでいくことである(完)

The trip to China
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