上海(4) 2003.1.28〜1.31

人口1650万人とも言われる上海は、中国を代表するビジネスと観光の都市。来るたびに、新たな刺激と発見がある。このままのペースで行くと、万博が開催される2010年には、どのように変貌しているのか。そして、上海で暮らす人々や中国はどうなっているのか。興味は尽きない。

外灘から眺めた浦東地区

【一日目】

リニアモーターカー

予定より少し遅れ、午後2時半前に上海到着。虹橋空港と違い、浦東新空港は、国際ハブ空港を意識してか、福岡空港の三倍くらいの広さ。出迎えの車に乗り込む。車が走り始め、雑談。リニアモーターカーの話題になった。昨年末、試乗運転開始。最高時速430キロ。30キロ区間をわずか7分で到着。片道150元でチケットは当分先まで売りきれているらしい。将来、北京・上海間の高速鉄道敷設を日本の新幹線とこのリニアモーターカーで争っているが、なにせ世界初の試みのため、電磁波による身体への影響も含め、一年ほど検討する様子。新らし物好きの上海市民は、リニアモーターカーを望んでいるらしい。同乗者が「あっ!」と言った。思わず、左側の窓を見ると、二両連結のリニアモーターカーが空港方面に走り去った。

南京東路のユニクロ

空港から50分で、南京東路近くの王宝和大酒店に到着。斜め向かいは、以前泊まったホテル・ソフィテル。チェックインを済ませ、両替して(1万円で約690元)、歩行者天国の南京東路をぶらぶらと歩く。去年オープンしたユニクロに入ってみた。レイアウト、品揃え、価格など、日本とほとんど変わらない。若者たちのファッションが外国の影響を受け、カラフルにセンスアップされていく。

ナイトクルージング

浦東側から遊覧船に乗り、黄浦江を約30分のクルージング。香港の銅鑼湾の夜景に比べれば印象は弱いが、激動の歴史をくぐりぬけてきた風格ある外灘の建築群が見事にライトアップされている。

和平飯店老年ジャズバンド

年末のためか、客は少ない。ここはいまや観光客のための店。若者たちは、新天地などのしゃれた店に行く。ホステスが席に案内する。「ここが一番いい席」と座らせようとする。演奏が正面から見えるからだ。「いくらか?」と聞くと「一人、80元」。高すぎると思ったので、少し奥に座った。それでも50元。小瓶のバドワイザーが一本35元。以前に比べて、随分高くなったものだ。バンドのメンバーは70前後と思われるおじいちゃんたち。演奏技術よりも雰囲気を楽しむところ。一回、行けばいい。

【二日目】

上海博物館 → 写真

人民広場にある上海博物館。周辺にはオペラハウスや人民政府庁舎などもあり、きれいに整備されている。館内は四階の吹き抜けで、中国の各時代の陶磁器、書画、家具、工芸品が陳列されている。今年一月、晋唐宋元書画国宝展があり、五時間待ちだったそうだ。今回は、ヨーロッパのガラス展をやっていた。ここは何度来ても飽きない。

外灘

上海観光の定番のひとつ、外灘。黄浦江の向こうは開発が進む浦東新地区。東方明珠塔と88階建ての金茂大厦がとりわけ目立つ。特に1999年に完成した金茂大厦はまさに摩天楼。高さが450mで世界三番目だそうだ。エレベーターの速さは秒速5m?次回、上海にくる機会があれば、ぜひ上ってみたいところだ。ただ、このビルにあるグランドハイアットはホテル代金・眺望とも高すぎて、宿泊に向いてないという意見もある。黄浦公園にある人民英雄記念塔あたりからから揚子江につながる下流の黄浦江方面を眺める。そこは、2010年の万博会場予定地。上海の建築ラッシュの勢いは当分止まらない。黄浦江の周辺は、過去の中国と未来の中国がうまくマッチングしている。

茶香園

外灘にある中国茶専門店。繁華街には天仁茗茶や天福茶荘などのチェーン店も含め、たくさんの茶館がある。ここは観光客相手のためか高い気がする。日本でも近年中国茶ブームがあるが、それらは鉄観音、東方美人、大紅袍、西湖龍井茶などの高級茶。土産はスーパーで売っているお茶で十分だ。売らんがための、いつもの試飲が始まる。こよりのように細長く苦いが薬用効果があるという、初めて見る「一葉茶」を買った(苦いが、高血圧、糖尿病などの内臓疾患にいいらしい)。勿忘草と檀のお香を負けさせて買い、香炉を探したが、大した物はない。そこへ店長らしき男性が近づいてきて、自分が骨董品屋で買ったという鉄製の小さな香炉を持ってきた。明代末から清代初頭の掘り出し物だという。最初、880元と言った。本物と主張するが、多分、偽物だろう。今回はいつもの茶壷(急須)の土産を香炉に変え、なんとなく惹かれたので、半分ほどに値引きさせて買った。

一葉茶は本当に苦い
免税店

今までの友誼商店ではなく、新しくできた免税店に行った。期待に反して、ブランド品しかなく何も買わなかった。こちらが少し中国語ができるというで、店員が「ちょっと教えて欲しい」と販売マニュアルを持ってきた。日本語で「お召し上がりください」と書いてある。意味を説明した。雑談していると、彼は三年ほど福岡市内の中国料理店で働いていたらしい。八仙閣、芙蓉別館、西通りなどの店名や地名が出てくる。親近感を感じた。

焼肉バイキング

昼食は焼肉バイキング。メニュー豊富の食べ放題で38元。若い接客員が誠実にサービスするのでチップを10元渡した。上海の知り合いに電話をかけるため、入り口近くの公衆電話を使ったが、途中で切れたため、近くにいたマネージャーに伝えると、このまま折り返し電話がかかってくるから少し待て、という。電話を終え、彼と雑談。これも中国語の練習。給料を聞くと、29歳の彼は1500元、レジ・ホステスが1000元、接客員が800元。思っていた以上に高い。中国の経済発展とともに、特に都市部の給料は上がり続けるだろう。

国営シルク工場

繭の状態から、絹糸になるまでの実際の行程を見せた後、商品売り場へ案内された。向こうも商売なのでいろいろと売りこむが、品物がいい分、値段も高い。何も買わずに帰るのも少し気が引けたので50元のハンカチだけを買った。ここも販売員の数が多い。国営にあぐらを掻いてきた企業は、いまどこも赤字に苦しんでいる。
シルク製品

豫園

上海観光の代表的な場所。二月一日からの春節(旧正月)を控え、飾り付けがきれいだ。南翔饅頭店の小龍包子売り場は相変わらず長蛇の列。ざっと見て百人近くが並んでいた。四回目にして初めて庭園の中に入った。ここは明代の役人個人の広大な庭園だったが、阿片戦争などで荒れ果て、後に修復された。屋根にある三国志の塑像、お堂、廊下、古木、彫刻、欄干、太湖石の奇石・・・。豫園商城の雑踏と異なり、静かで落ち着く。印象に残ったのは、ガジュマルで作った椅子と屋根瓦で作った龍壁。龍は石塀に沿って胴体が波打っている。

湖心亭は以前に比べて、かなり高くなっている。ちまきなどのつまみが数種類、無料でついてくるが、以前は、確か一番安い龍井茶で18元。それが今回は50元。すぐ近くのスターバックスもそれなりに高いから、休憩は楼閣のほうでよしとしよう。地下の骨董品売り場はほとんど偽物らしい。客も少なく、いずれ閉鎖の運命にあるのではないか。豫園に着いたころはまだ明るかったが、夕方になると九曲橋の池がライトアップされ、春節の飾り付けがきれいで別の趣を漂い始めさせていた。

豫園商城

緑波廊

といっても、今回は浦東支店。中国のレストランは今、単に美味しいだけでなく、きれいでしゃれた内装が客を呼ぶ条件だ。豫園の本店同様、ここもうまかった。客が多いのもうなづける。
餃子の種類は多い

上海雑技団

初めて生で雑技団を見た。平均年齢20歳前後。彼らの演技を見ていると、完璧さが求められるだけに、どれだけ厳しい訓練を積んできたかを想像してしまう。選び抜かれたエリートたちの身体の柔らかさやバランス感覚に驚かされる。一時間半の公演時間がまたたくまに過ぎるほど見事な芸が続く。圧巻はオートバイの雑技。直径10mほどの網の鉄球の中で上下左右にオートバイが走り回る。最初は一台だけ、それが一台ずつ増え、最後は四台。コンマ何秒タイミングがずれると衝突する。エンジン音と繰り返される交叉に思わず息を呑んだ。
雑技団フィナーレ

【三日目】
石庫門酒家で食べた蟹

新天地

事前に、中国の知人に現地ガイドの紹介を頼んでいた。名前は王さん。大学時代、大阪に三年間交換留学した経験がある。当初、周荘や朱家角など郊外半日旅遊も考えていたが、時間的な問題もあり、朝、打ち合わせて市内観光に切り替えた。最初に向かったのが新天地。 旧フランス租界の街並を再現した、最近にわかに注目を浴びている人気観光スポット。今世紀初頭の黒煉瓦を外壁にした住宅 石庫門 を改造したショップやレストランが、お洒落で、落ち着いた雰囲気を醸し出している。さしずめ、中国における「青山・六本木」の様相で、夜はバーなど若者たちで賑わうらしい。 中国共産党の第一回全国代表大会が開催された場所でもある。いま上海では緑化運動が進められており、横の人工池周辺の公園は移植された木々で整備されつつある。

襄陽服飾市場

200〜300軒の個人商店が所狭しと並んでいる。衣類、バッグ、靴、雑貨・・・。ここは、北京の秀水市場と同様、値引きを楽しむところ。中国語が話せなくても電卓で交渉できる。バーバリーのマフラーを手に取っていると、案の定、定員が声をかけてきた。買う気は最初からなかった。店を離れようとすると、「ちょっと待って」と言って別のマフラーを持ってきた。端っこの糸をライターで燃やし、「匂いが違うだろう。こっちは本物だ」と言っている。このような個人商店は、最初から高めに価格が設定しているため、値切って当たり前。免税店でブランド品を買うより、はるかに安い価格でそれなりの品質の偽ブランド品が買える。偽ブランド品と言えば、客引きがたまたまガイドの王さんに声をかけ、しばらく話していたが、彼が地元の人間と分かって安心したのか、こちらへ、と言って、我々を道を隔てた住宅街の中に連れていった。洗濯物が干してある小さな通りを少し入ると1軒の家。外から見ると普通の家だが、ドアを空けると、バッグや財布などの革製品がびっしりと並んでいる。取り締まりを避けた闇の店舗だ。さっきの市場に較べ、ブランド品ばかり。「友達価格」ということで、かなり安くしてくれた。

自販機の普及は、一気呵成か

以前から、なぜ中国に自動販売機がないのか、と考えていた。コインの問題、盗難リスク、国際的に見て日本だけの特別な生活文化?それとも、なにか他に障害があるのか。去年、北京の頤和園の一角で日本製を見かけたが、あまり利用されている様子はなかった。売店の方が手っ取り早い?立地が良ければ、収益も大きい。商売上手な中国人なら飛びつくはずだ。交通信号機と同様、うまく行けば、金の鉱脈が眠っている・・・。そう感じていた。地下鉄は自販機だった。硬貨を入れると名刺大のカードが出てくる。それを改札口で挿入する(カードは再利用)。地下街でサントリーの自販機を見かけた。北京よりも進んでいる。そんなとき、下記の新聞記事を見かけた。1台約2万元(約30万円)で販売する予定だそうだ。

「富士電機が中国の冷凍装置メーカーと自動販売機の合弁会社を現地に設立する。日本を含めた海外メーカーが中国で自販機を製造、販売するのは初めて。2008年開催の北京五輪を控え、公共施設を中心に中国でも自販機が普及するとみられる。富士電機は現地シェア3割、年間売上高30億円を目指す」(日本経済新聞)


徐家匯(Xiu jia hui)

地下鉄で徐家匯(じょかわい)へ。休憩を兼ね、近くの建国賓館で昼食。ここも春節の飾り付けがあった。少し歩くとたくさんの百貨店やコンピューター専門店があり、年末の買い物客で賑わっている。何軒かぶらぶらと覗いた。品揃えや品質など、ほとんど日本と変わらなくなってきている。横断歩道は、渋谷駅前並み。とにかく人が多い。

タクシーが捕まらない

次の目的地は、庶民の生活感覚を味わいたいと、朝、頼んでいた生鮮市場。パック旅行では絶対に行かないところだ。そのためにタクシーに乗ろうとするがなかなか空車が来ない。来たとしても、横から他の客が割り込んでくる。早い者勝ちだ。乗客が降りる前に、乗り込んでくる者もいる。すでにタクシーは庶民にとって不可欠な足。閑古鳥が泣く日本のタクシー業界もバブル時代は同様の風景があったのだが・・・。

多様化する交通手段

初めて、上海を訪れたとき、その人の多さに圧倒された。今回、上海駅に行くことはできなかったが、多分、帰省客や旅行客で大混雑しているに違いない。また、以前に較べて渋滞が多くなった気がする。ガソリン代はリッター数元。ホンダ車が一番人気があり、納車まで三ヶ月かかる。ナンバープレートは一枚三万元。毎月、4000台の新車が飛ぶように売れているそうだが、このまま車が増え続けると、単に交通事故が増えるだけでなく、排気ガスの問題も出てくるだろう。自転車、バイク、バス、タクシー、地下鉄、鉄道など、交通手段も多様になってきた。そして新空港、リニアモーターカー、高速鉄道、自家用車・・・。世界の最先端の技術が中国に投入されていく。

太陽市場

タクシーで虹橋方面へ向かい、住宅街の一角に着いた。太陽市場と書いてあり、1階がスーパーマーケット。二階が目指す生鮮市場。肉、魚、野菜、蟹、鶏、鳩、穀類など新鮮な食材がふんだんに並んでいる。通路の床に座り、何本もの牛の尻尾(オックステール)を包丁で切っていた。少々グロテスクな気もしたが、こういう場所に中国旅行の醍醐味のひとつがある。
肉のブロックのまま買っていく

盲人按摩

歩き疲れたので、すぐ近くのマッサージ店に行った。周辺は日本の駐在員も多く、看板は日本語でも書いてある。時間がなかったので、30分だけやってもらった。目の不自由な若者が全身マッサージをする。一時間45元。フルタイムやっていたら、もっと気持ちがよかっただろう。

カルフール古北店(家楽福)

カルフールは、一昨年日本にも進出したフランス流通業の大手。売上高世界第2位を誇る。今、中国の流通業は西洋化の波を受け、百貨店や、スーパーマーケット、コンビニなどのチェーンストアが激しい競争時代に入っている。ここカルフールは、衣料、家電、日用品、食品など広範な分野にわたって豊富な品揃えと低価格。ハウスと味の素合弁のレトルトカレー(現地生産)もあった。駐在員家族なのか、欧米人も目立つ。大きなカート一杯に商品が入り、たくさんあるレジはどこも長蛇の列。日本の流通業の衰退が言われて久しいが、ここは店内に活気がある。

石庫門酒家で上海蟹を食べる

華東師範大学近くにある、王さんのお父さんが経営する石庫門酒家で夕食を取った。普通は学生たちも多いらしいが、春節を控え、客は比較的少ない。まずビールを頼んだ。上海は、サントリー(三得利)がどこの店でもよく出てくる。日本の朝日ビールも善戦しているが、サントリーは小規模卸の組織化と低価格戦略でトップシェアを握った。料理は、王さんに任せた。冷菜、冬竹の子の炒め物、コラーゲンたっぷりの豚の切り身、川うなぎ、牛肉の野菜炒め、豆腐、春巻、おこげ、とうもろこし、ビールに加え、紹興酒はボトル二本・・・、そして、上海蟹。最後に、小粒で甘い味の団円子(白玉だんご)。中国人が大晦日に食べるそうだが、わざわざ作ってくれた。この店は温かさが感じられた。。最後の夜は贅沢しようと考えてはいたが、非常高興(Very happy)、非常感謝 !!。

庶民的な石庫門酒家 住所:光復西路1961号 TEL:62922475

アメリカとの関係が一番気になる

食事をしながら王さんはいろいろな話をしてくれた。料理にも陽の料理と陰の料理がある。浦東地区はいま、世界の大企業が集中して投資している。話題が、自分の娘の教育から受験競争に広がったとき、囲碁の碁盤はもともと子供たちが毎日、黒石と白石を並べて学習した。19 × 19 で361。確かに一年365日の数に近い。

王さんに敢えて質問をぶつけてみた。「中国は、こんなに発展しているのに、一方で不安材料もあると思いますが、王さんは何だと思いますか」「食糧問題などは心配ない。自分は、台湾返還問題と、詰まるところは、その背景にあるアメリカとの関係だろうと考えている」。中国は、将来アメリカに対抗できる、もうひとつの超大国になりうるのか。


明日は大晦日

王さんが、ホテルまで送ってくれて、四回目の上海旅行が終わった。しかし、まだまだ行きたいところは残っている。明朝は、七時過ぎにホテルを出て空港に向かわなければならない。近くのローソンでビールとつまみを買い、名残を惜しんでいると、花火の音がした。本当は、明日の夜だが、予行演習なのか。季節感の失われた日本と違い、中国の春節は相変わらずにぎやからしい。ただ、滞在中の好天気が再びくずれるとの予報で、人出は減らざるを得ないだろう。

日本経済が凋落する一方で、中国は今、世界各国の資本投下で成長を続けている。その代表が上海。商工業の中心地だ。その発展は、上海を要(かなめ)として放射線状に広がっていく。襄陽服飾市場や太陽市場にある庶民の活気、浦東地区への投資、車社会、流通業の変化、食文化の多様化、不動産市場・・・・、次回、上海を訪ねる機会があるとしたら、観光とビジネスにからんで、その時は、どのような新しい刺激を受けるのだろうか。
The trip to China
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